東北アジアの市民交流を進める歴史と教育のマダン

~歴史と被害当事者に向き合ってこそ未来が展望できる~

韓日中首脳会談と韓日首脳会談

韓日首脳会談2015年11月1日から2日にかけて、3年半ぶり、安倍政権となって初めての韓日中首脳会談と韓日首脳会談が開催された。この会談の開催自体は今年3月に開催された第7回韓日中外相会談で合意されたもの。外相会談の共同報道文で「今回の会議(外相会議)の機会に3カ国協力メカニズムが回復に向かうことへの期待」を表明したように、安倍政権が発足して以降、3カ国の関係が歴史問題をはじめとするさまざまな懸案をめぐって不正常な関係にあり、なんとか打開する必要があるという3カ国の共通認識は示されており、それに基づいて首脳会談が開催された。11月1日に開催された韓中日首脳会談では、「北東アジアにおける平和及び協力の実現」「共栄のための経済的及び社会的協力の拡大」「持続可能な開発の促進」「人々の間の信頼及び理解の増進」「地域及び国際の平和及び繁栄への貢献」という5分野56項目にわたる共同宣言文が発表されている。そのなかでは、「3か国協力が完全に回復されたとの認識を共有」しつつ、「地域における永続的平和、安定及び共栄を構築し、揺るぎない3か国協力を発展し続けるため、経済的な相互依存関係と政治・安全保障上の緊張が共存する状況は克服されなければなら」ず、「歴史を直視し未来へ前進するとの精神のもと、我々は、3か国が関連する諸課題に適切に対処し、二国間関係の改善及び3か国協力の強化に共に取り組むことに合意した」ことを明らかにした。その上で、継続した韓日中首脳会談の開催、韓日中FTA(自由貿易協定)締結交渉の加速、各分野での交流・協力の拡大・強化、朝鮮半島での核開発反対と六者協議の早期開催などで合意を見た。翌11月2日、朴大統領と安倍首相の初の韓日首脳会談が開催された。会談では安全保障や経済協力、人的交流などにも触れられているが、もっとも注目されたのは、「慰安婦問題」であった。これまで韓国政府は「誠意ある措置」を求め、一方の日本政府は「すでに解決済み」との姿勢を崩さず、両国間の対話関係の大きな壁となってきた。しかし今回両政府は、「慰安婦問題については,日韓関係の発展に影響を与えているとの認識を踏まえ,両国が未来志向の関係を築いていくため,将来の世代の障害にならないようにすることが重要であるとの認識を共有」「両首脳は,今後も協議を継続し,本年が日韓国交正常化50周年という節目の年であることを念頭に、できるだけ早期に妥結するため、協議を加速化」すると明らかにした。今回の韓中日首脳会談と韓日首脳会談は懸案解決という成果があった会談とは言いがたいが、これまでギクシャクしていた3カ国の対話関係と「慰安婦問題」の妥結に向けた韓日協議の始まりを確認したという点では一定評価されるだろう。

安倍談話と歴史認識

戦後70年を迎え、8月14日、安倍内閣は臨時閣議を開き、「戦後70年談話」(以下「安倍談話」)を決定、発表した。「4つのキーワード」(痛切な反省、お詫び、侵略、植民地支配)に象徴される過去の歴史認識を表明した「村山談話」を継承するかどうかが注目された「安倍談話」であるが、文言としては、「我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。…こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」としてはいるものの、全体を通じてみたとき、村山元首相が「全体を通して見ると、焦点がぼけて言葉を薄め、抽象化して不明確になっている」「村山談話を否定も踏襲もしていない」とし、河野元官房長官が「少なくとも日中、日韓の関係改善のきっかけにはならない」と批判したように、アジアの人々の胸に響くものとは到底いえないものであった。
例えば、日本が加害国であった事実や被害国の受けた被害について、主語が不明確にされることによって責任があいまいになっていることや、過去の侵略戦争の歴史についても「欧米諸国の植民地経済とブロック化」によって追い詰められた結果であると、あたかも日本が被害者であるかのようにとらえ、一方で「日露戦争は、植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気付けた」と、「民族解放闘争としての大東亜戦争」史観が盛り込まれている。そして、「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない苛烈なものです」としながら、そのことに対する明確な「反省と謝罪」が語られておらず、むしろ「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と、歴史の継承を否定するような印象も与える。
安倍談話については、各国メディアも批判的な報道をしているが、日本の対米外交に影響力を持つ「笹川平和財団USA」のデニス・ブレア会長も、10月2日、安倍談話に対して「責任回避で一貫した失望すべき文書」とし、「安倍首相は『歴史の教訓の中から、未来への知恵を学ばなければならない』『何の罪もない人々に計り知れない損害と苦痛を我が国が与えた』と言ったが、20年前の村山談話には程遠かった」「私たちは日本の指導者たちに対し、日本人が自国の過去をもっとよく理解する助けとなるよう望む」と語っている。
結局、安倍談話はアジアの国々をはじめとする国際社会に対するものというよりも、日本国内で「もうこの問題に決着をつけて、あれこれ言われたくない」と感じている人々に向けた、極めて内向きなメッセージだったといえるのである。しかし、中身はともかくとして、対外的には「村山談話」を継承すると表明せざるをえなかった。8月15日の光復節で朴槿恵大統領は、安倍談話に対して「残念な部分が少なくない」としつつも、慰安婦問題などについて、謝罪と反省を表明してきた歴代内閣の立場を受け継ぐとしたことに「注目する」とし、今後の対応に期待を表明した。また中国は8月14日、華春瑩外務省副報道局長の、「国際社会が共同で第二次世界大戦勝利70周年を記念している今日、日本の軍国主義による侵略戦争の性質と戦争責任を明確に引き継ぎ、被害国民に真摯なおわびをすべきであり、この重大な原則を覆い隠すべきではない」との談話を発表している。韓国、中国とも安倍談話の内容については強い批判を持ちつつも、最低限、村山談話の継承を表明したことを受けて、今後の行動を注視するという抑制的な姿勢だったといえるだろう。

安保法案の成立と集団的自衛権

安保法制この時期、日本の政治の中心となった問題は「平和安全法制」いわゆる「安保法制」であった。昨年7月1日に「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容される」という、集団的自衛権を容認する閣議決定がおこなわれた。これにもとづき「安保法制」が2015年通常国会に上程され、7月16日には衆議院で、9月19日には参議院で強行採決の末に可決され、成立することとなった。しかし、安保法制は、①それ自体が憲法に違反した違憲立法である、②実際に他国の紛争・戦争に自衛隊が巻き込まれる現実的な恐れがあること、③大多数の国民の反対にも関わらず、民主的な手続きを経ず進められていること、などから「SEALDs(シールズ・自由と民主主義のための学生緊急行動)」や「安全保障関連法に反対する学者の会」をはじめ、多数の市民が反対運動を繰り広げ、安保条約反対闘争以降最大規模の反対運動が国会前を始め、全国各地で繰り広げられた。
安保法制の成立によって自衛隊海外派兵に道を切り開くことになるが、こうした動きは、単に自衛隊の対応にとどまらず憲法9条の改憲、10月1日に発足した防衛装備庁を中心にして、武器開発・輸出など軍需産業の拡大、特定秘密保護法と「社会保障・税番号制度」(マイナンバー制度)などとも連動した情報管理・統制制度の整備など、市民生活全般に大きな影響を与えていくと見られる。
一方、安保法制の成立を受けて、米国防総省のビル・アーバン報道官は「日本は戦後70年にわたって平和、民主主義、法の支配を一貫して守ってきた模範だ」とし、「日米同盟を強化し、地域と国際社会の安全保障に、いっそう積極的な役割を担う日本の努力を歓迎する」と高く評価した。またマケイン上院軍事委員長ら軍事、外交両委員会の超党派議員も「改定された『日米防衛協力のための指針』に則し、日本と新たな方策の導入に取り組むことを期待している」との声明を発表し、今後日米両政府は米軍と自衛隊の抑止力と共同対処能力の強化に向け、(1)朝鮮半島、東・南シナ海、中東情勢などの現状と想定に照らした協力(2)共同作戦、運用計画の見直しと新たな策定(3)相互運用性の強化(4)日米物品役務相互提供協定(ACSA)の見直し(5)合同演習の強化-などを順次、検討していく方針だとしている。
米国は財政状況が悪化するなか、今後3年間で陸軍兵力を4万人、軍関係の職員も1万7千人を削減する計画であり、今後も軍予算が縮小は避けられないと見られているが、安保法制は結局のところ、「テロとの戦争」を掲げて泥沼化する中東政策をはじめ、世界規模で拡大する米国の負担を日本が肩代わりするためのものであるといっても過言ではない。だが日本がそうした役割をになう上で、韓国、中国などアジア諸国と歴史認識をめぐって日本が対立していることは米国にとっても大きな懸念材料であったことは間違いない。
そもそも「戦後レジームからの脱却」を掲げる安部政権は、その歴史観において米国と対立し、またアジア諸国との関係を悪化させるとの危惧を抱かせていた。2014年の米議会調査報告書は、前年12月に安倍晋三首相が強行した靖国参拝について、「アメリカ当局者による静かな制止を無視して行われた靖国参拝は、日米の相互関係を複雑にさせる指導者の資質を示す」「東京とワシントンの間の信頼を壊すものだった」と批判。「安倍氏の歴史観は、第2次世界大戦におけるアメリカの役割や、日本占領についての見方と衝突する」と述べていた。したがって、「安倍談話」の発表からわずか数時間後に米国家安全保障会議(NSC)のネッド・プライス報道官が「安倍首相が、日本が第二次対戦中に与えた被害に対する痛切な反省を表明したこと、ならびに、安倍首相が日本の歴代内閣の歴史認識に関する談話を継承したことを歓迎する。また、日本が今後より国際平和と繁栄への貢献を拡大していくとしたことを評価する」と表明した。同時にその一方で、10月16日の韓米首脳会談直後に開かれた共同記者会見で、オバマ大統領が「日本と歴史的な問題を解決し、未来志向的な関係を持つべき」と、日本との関係改善を強く求めたように、米国の望む韓米日のパートナーシップにとっても歴史問題は解決すべき重要な問題となっている。

あらためて問われる「慰安婦問題」

水曜デモいずれにせよ、閉ざされていた韓日両首脳による対話が再開し、もっとも重要な争点として「慰安婦問題」がとりあげられ、双方が早期妥結を目指して努力していくことが確認されたことは、一歩前進であり、今後はその決着に向けた内容が問われてくることになるだろう。これまで「慰安婦問題」解決に取り組んできた「日本軍『慰安婦』題解決全国行動」日韓首脳会談に際して、「『慰安婦』被害当事者が受け入れられる解決策を」と題する声明を発表している。そのなかで、この問題がいまだ解決されないのは、「日本政府および軍が、軍の施設として『慰安所』を立案・設置し管理・統制したという事実とその責任を日本政府が曖昧さのない明確な表現で認めるという、当たり前の行為が伴ってこなかったから」であり、「賠償、真相究明、教育や否定発言への反駁といった再発防止のための後続措置が伴って初めて、謝罪が真摯なものであるとして被害者に受け入れられることができる」と被害当事者に向き合った解決策を求めている。「慰安婦問題」は歴史問題であり、人権問題であり、政治問題である。しがたってその妥結に向けては、さまざまな論点が提案されるだろうが、いまも苦しんでいる当事者のハルモニたちがおられ、その方々が受け入れられる解決方案でなければならないという視点が決して忘れてはならないだろう。

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