東北アジアの市民交流を進める歴史と教育のマダン

来年2015年が日韓条約締結50年にあたり、その節目を未だ残されたままにある過去清算問題の解決のための機会にすべきと考える日韓市民団体が、6月20日から22日にかけて、在日本韓国YMCAにおいて、「日韓市民がいっしょに開く『歴史NGO大会in東京』 1965年日韓協定体制の克服と東アジアの平和」が開かれた。

主催は、日本の諸団体・個人が実行委員会形式で集まった「日韓つながり直しキャンペーン2015」、韓国側は、歴史NGO大会を韓国で2年に1回開催している「東アジアの平和のための歴史NGOフォーラム」と、2010年韓国併合百年の日韓市民共同行動の流れをくむ「韓日市民宣言実践協議会」の2団体である。日韓つながり直しキャンペーンは今年2月に立ち上げ集会を開いている(本ニュースレター前号を参照)。

この大会には、韓国から市民団体、研究者、弁護士など約50名もの参加者が来日した。さらに、オーストラリア、オランダ、タイ、フィリピン、米国、ロシアからも歴史、国際政治の専門家が参加した。とくに歴史NGOフォーラムが、日韓間に横たわる歴史問題を二者間で見つめるのではなく、多様な視点から捉え直すことの重要性を提起し、今回のように幅広く招請する形となった。

海外からの参加者の大部分が日本に到着した6月20日、衆議院第一議員会館で記者会見を開いた。この日は通常国会の最終日であり、きしくも安倍政権が進めてきた「河野談話」(1993年)の作成過程に関する検証報告書を発表した日であった。菅官房長官の記者会見と時間がバッティングしたため、マスコミの参加も非常に少なかったのが残念でならなかった。政府の話だけでなく、このような日韓・海外の専門家、民間団体の意見もしっかりと拾うべきではないのか。

翌21日は、基調講演及びシンポジウムが開かれた。基調講演は日本・韓国・豪州・米国の4人の研究者からなされた。恵泉女学園大学名誉教授の内海愛子さんが、当時の日韓条約反対運動に朝鮮史研究者がどのように関わっていたのかという切り口から、日韓条約の問題点や日本の運動側が抱えていた限界等について触れられた。韓国外国語大学教授の李長熙さんは、日韓協定体制の締結過程と限界性、それがもたらした過去清算問題との因果関係について詳細な報告がなされた。オーストラリア国立大学名誉教授のガヴァン・マコーマックさんは、戦後東アジアが置かれた国際政治の中で築かれた日韓関係について検証を行ない、あらためて日韓条約で問い直されるべき点について指摘された。コロンビア大学教授のエラザ・バルカンさんは、紛争解決の視点から歴史対話はどのようになされてきたのか国際社会の経験について報告し、その観点から今の日韓関係に対するいくつかの提案を行なった。

その後のシンポジウムは、立命館大学准教授の庵逧由香さんが進行を担った。日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の梁澄子さんからは、日本軍「慰安婦」問題の真の解決の絶対必要条件は、被害者が受け入れることのできる内容であり、それは「慰安婦」問題の運動が始まった当初からずっと堅持されてきている立場だと語られた。過去清算問題に取り組む上で決して忘れてはならない観点である。また、慶北大学教授の金昌録さんは、「日韓条約を土台とした「1965年体制」は多くの問題を抱えていることが日韓の市民の力により明らかにされてきた。既にこの体制は崩壊に近い状態であり、私たちは新たに「2015年体制」を構築する必要がある」という見解を表明された。ディスカッションでは、この2015年体制が何を指すのか、具体的な可能性はあるのかなど、質問が相次いだ。

またこの日はサイドイベントとして、映像を通じて朝鮮植民地問題を考える企画も行なわれた。恵泉女学園大学准教授の李泳采さんの進行のもと、「兵隊さん」「軍用列車」「銃後の朝鮮」「志願兵」という4つの宣伝映画が上映され、それに関する歴史の専門家や元機関士の方に話をしてもらった。宣伝映画という視点は過去清算問題の取組みではほとんど注目されてこなかった分野であり、今後新たな視点を提供するものとして意義深いものといえるだろう。

翌22日は、複数の分科会が同時並行で進行した。一番大きな会場で開かれた〈植民地主義清算=「反日」批判を乗りこえる〉では午前・午後にまたがり11名から報告があった。韓国側参加者の関心を集めたのはヘイトスピーチ問題だった。ジャーナリストの安田浩一さんは実際の排外主義デモの現場映像を流しながら昨年来より過激化している日本のヘイトスピーチの現況を具に報告された。また東京造形大学教授の前田朗さんからは、〝「慰安婦の嘘」処罰法〟をつくろうという具体的な新提案がなされた。ヘイトスピーチに対する法規制論議はこの間徐々に関心を集めてきているが、その一形態といえる歴史否定発言に対する法規制は未だ論議が始まっていない状況だ。そういうなかで、この提案は多くの示唆を与えるものである。その他の発言者、また他の分科会でも興味深い意見や指摘が数多くなされているが、紙面の制約で紹介できないのが残念である。

大会の最後には決議文案が朗読された。そこには、2010年韓日共同行動による「日韓市民共同宣言」のなかで日本政府に要求した20項目の履行を引き続き求めるとともに、朝日間、朝米間の国交正常化の実現させるための多様な活動展開という主張も新たに加わった。参加者一同の拍手でこの決議文は採択された。

今回の大会を語る上で欠かすことのできない点は、10~20代の学生青年の活躍である。『日中韓高校生歴史サミット』では、韓中日3国にルーツを持つ高校生10名が、現在の歴史問題を各国の視点から報告した後、グループ別討論を行ない、どうしたらもっとより良い関係を築けるのかについて考えた結果を表明した。また特別セッションとして開かれた『青年フォーラム』には、韓国の大学生と日本の大学生がそれぞれ10名ほど参加し、日韓の過去と現在について持っている認識を表明しながら、未来に向けた展望について議論を行なった。こうしたプログラムではないが、今回の日本側の準備過程には、大学生のボランティアスタッフが様々な面で力を発揮した。彼ら彼女らのほとんどが、今回初めて日韓の過去清算問題に関わったという。両国間の市民による中長期的な活動が求められることが間違いないだけに、こうした若者世代の参与度が高まっていくことは、まさに財産だといえる。

当センターは、分科会の司会進行を担ったほかに、韓国側参加者の滞在にともなう事前準備や行事開催中のアテンド、大会が終了した翌日に行なわれたフィールドワークなど、韓国側参加者のための現地コーディネート全般を担った。そのことを通じて、韓国の様々な研究者や団体との関係ができ、またそうした人たちに在日同胞として活動する市民団体の存在をアピールするという機会に恵まれた。

今回の歴史NGO大会in東京は、多くの参加者が集まり成功裏に終えることができた。今回はいわば前夜祭であり、私たちは過去清算問題に対する日韓共同行動を今後引き続き展開し、来年2015年にもっと大きな結節点をつくり出す計画である。多くの人たちの関心と協力を引き続きお願いしたい。

 

(コリアNGOセンター ニュースレターVol.36より抜粋)

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